「いらっしゃいいらっしゃい! 安いよ安いよー!」 「ここで買わなきゃどこで買う? さあ、この機会でしか出会えない品物だよー!」 「国々を横断するあの有名なサーカス団『オール・フォー・ワン』がショーを行うよ~! 正午、広場にて開催! 見に来ないと損損っ」  国内では大きな声が飛び交っていて、なんだかお祭りみたいです。人もたくさんいてあまり見回しているとノンちゃんとはぐれてしまいそうで、それを察したノンちゃんが手を繋いでくれました。  道は石畳でできていて、幅はけっこう広いです。その広さから道路の右側や左側で路上販売というものをしているみたいで、道路の中央を人が行き来していました。道を挟んでいるのは五、六階建てのアパートばかりで、一軒家みたいな家は今のところ見当たらずただアパートが道なりに並んでいます。道がたくさん交差していて、アパートを壁に見立てた入り組んだ大きな迷路のようでした。  ノンちゃんはもらった地図を見ながらどこで『出店』をするか辺りを見渡しています。地図から小さな区間で路上販売する通りと、屋台のような中型の区間で路上販売する通りと、トラックくらいの大きな区間で路上販売する通りと分かれているようで、適した通りならどこでも自由に出店していいとのことでした。  私たちは小さな区間の通りに踏み入り、空いている場所を探します。 「……シキ、ここら辺で始めようか」  ふいにノンちゃんが立ち止って私の方に顔を向けました。 「呼びかけならお任せだよ!」  ノンちゃんから手を離して、胸を叩いて言いました。ノンちゃんは右へ左へ見渡して飛び交う呼び声の多さに気づいたようです。立って看板掲げてるだけではお客なんて来ないと思うし、私たちも声出さないと! 「……そう、だね。じゃあ、頼んだよ」 「うん!」  ノンちゃんは腰にある笛を取り出しました。 「ん~なんて呼びかけようかな……。──寄ってらっしゃい見てらっしゃーい! ここの占いはただの占いではありません! なんと笛を使った占いでーす! 笛で占いやってみませんかー? ここだけの貴重な体験です! 笛を使ってあなたの未来を予言しまーす!」  口に両手を添えて歩いている人に声が届くように言ってみますが、ちらりと見る人はいるけどなかなか立ち止まってくれる人がいません。もう一度大声で呼びかけてみますが、同じでした。私の声では届かないのかなと、ちょっぴり自信なくしちゃうな。 「ノンちゃん……」 「いいよ、シキ。ありがとう」  私を慰めるかのようにノンちゃんは頭を撫でてくれました。  一向にお客さんが来ない中、ノンちゃんは笛を口元に持って息を吹き込み始めました。音はやっぱり出ません。 「練習?」 「……一応……。形から入った方がいいのかなって」  プスゥ──。 「……」 「出ないね」 「……難しいな」 「あの、」  練習に励むノンちゃんを見守っていると、一人のお姉さんが来ました。お客さんかな? 「占いって恋の成就とか金運とか、そういうものを当てるの?」 「……人によります」 「え?」 「自分はよくわかりません。その人の周りで起きる未来について予言する……とでも言うのでしょうか。この笛が答えてくれます」 「その、笛が……?」 「はい」  お姉さんはぽかんと口を開けたままノンちゃんが前に出した笛をじーっと見ています。明らかに怪しんでます。私も最初そんな反応だったから、正直疑ってしまう気持ちはわからなくもないですが。 「もしはずれるようならお代はいりません。当たったようなら代金を頂きます」 「え、どうしよう……」 「騙されたと思って試してみてはどうですかお姉さん! こんな機会ないですよ!」  これはチャンスだと思い私からも強く宣伝します。ここでお客さんを捕まえないと今後もお客さんが来てくれない気がするのです。 「そうよねぇ……。ちょっと試してみようかしら。子供が商売すること自体珍しいしね」  ノンちゃんは「それでは」と笛を口に当て、息を吹き込みました。もちろん音は出ません。その様子にお姉さんはまた口を開けていました。まあ、うん。わからなくはないです。 「……。頭上注意」 「……。え、それだけ?」 「はい。そう言いました」 「その笛が?」 「はい」  ノンちゃんは笛を口から離して淡々とお姉さんに言いました。やっぱりお姉さんは信じられない様子で、眉をひそめています。 「う~ん……いまいち信じられないわねぇ」  どうやら代金を払いたくなさそうな雰囲気です。私が口を尖らせていると、ノンちゃんは顔をお姉さんに向けたまま笛を持った手を私の頭の上に置きました。 「かまいません。信じる信じないはその人次第です。自分は笛に言われたことを助言しているだけなので」 「じゃあ……代金は?」 「払いたくないというのならそれでいいです」 「そう、悪いわね……。もしその占いが当たったら代金をまた払いに来るわ」 「どうも」  そう言ってお姉さんは去ってしまいました。 「ノンちゃんいいの?」 「いいよ」  私の頭から手を離したノンちゃんは少し微笑んだように見えました。きっと他の人には変わりない顔に見えると思うけど、私はノンちゃんのその表情から『シキは心配しなくてもいいよ』と言っているように感じました。  だから私もノンちゃんに笑うのです。ノンちゃんが大丈夫と言うなら私はノンちゃんを信じるよ! 「じゃあどんどん呼びかけするね! お金払ってくれる人いるといいね!」 「うん、そうだね」  ノンちゃんが持っていた笛を腰に戻そうとすると、その手が一瞬止まりました。 「?」  数秒そのまま固まっていると思ったっら、ふいに頭だけまだそんなに離れていないお姉さんの方を向き、その後斜め上の方を向きました。そして何か気づいたようにノンちゃんの目が一瞬見開きました。  ノンちゃんは笛を腰にすっと差すと、お姉さんを追いかけるようにいきなり走り出しました。 「ノ、ノンちゃん!?」 「シキはそこで待ってて!」  追いかけようとしましたが、ノンちゃんの声に思わず私はその場で立ち止まってしまいました。  ノンちゃんがやったように私もお姉さんを見つめて、その後ノンちゃんが見上げた先を辿ってみると、アパートの四階で窓が開いている部屋がありました。その窓枠にはいくつも鉢植えが置いてあって、ちょうど水をあげている人がいます。 『頭上注意』 「あ!」  その瞬間私は目撃しました。水をあげている人の腕が一つの鉢植えに当たり、その鉢植えが外へ出てお姉さんの頭めがけて落ちてくるところを。 「あ、危ない!」  ガシャァンッ!

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