老化する国
-Punishment to a person against current-

「さあさあどうぞお掛けになって。最近は旅人さんが訪れなくて退屈していたところなんですの。何について知りたいですか? 時間はたっぷりあるんですもの、じっくりお話しいたしましょう。国の伝統品なんてどうかしら? それとも観光スポット? 伝統料理は食べたかしら? あら、もう聞きたいことがあったんですね。どうぞどうぞ、気が済むまで語らせてくださいな。この国の老化現象について……ふふ、たしかに気になるでしょうね。わかりました。一から話しましょう。そうですねぇ、この国も数十年前までは平穏でしたのよ? でも少子化が進んでしまい、そのうち子供がいなくなって今いる大人たちでこの代を終えることになってしまうほどの危機だったんですの。そこで開発したのが不老不死の薬。死ななければこの国はいつまでも残りますし、不老ならまた子作りだってできるでしょう? そうしてまた子供が増えていけば国もまた安定していくと思ったんです。子供のいない未来なんて考えられませんしね。あなたたちのような子供がはしゃいで遊ぶ姿や賑わう声が私とても好きなんですの。そうそう、庭園の遊具は見ました? 城だと近寄り難いこともあって街へ下りないと子供の姿もなかなか見られないんです。だから気軽に遊びに来られるようにと子供たちのために私が頼んで設置してもらったんですよ。訪れた旅人さんにも見てもらっているのでまたぜひご覧に……はい? え? 続きは、って……あぁ、話が脱線していましたね。すみません。これは年寄りの性かしら……。申し訳ありませんわ。えぇと……不老不死の薬を作る、というところからだったかしら? ここまではいい計画のはずだったんです。開発担当総出で研究に励みましたわ。やれ人間の成分は、やれ長寿の秘訣はなんだ、とにかく調べ尽くしてくれたんです。そうして薬が完成したわけですが……この薬、不老不死ではなく老化促進の薬になってしまったんです。あぁ、なぜこうなってしまったのかしら……。最初に試したのが動物だったからわからなかったのも仕方ありません。マウス実験というものを聞いたことはありませんか? こういう薬は人間に効くかどうかまずネズミに試薬するそうで……え? あぁ、そうですね。ネズミも人間も一つの命であることに変わりありませんもの、この話はやめておきましょう。そうして次に実践として服用したのがこの研究の発端でもあり女王であるこの私。私はこの国を、国民を守る義務がありますもの、人間で試すなら女王からが当然でしょう? なんといっても責任を負わなければなりませんからね。国民に何かあってからでは遅いですもの。たしかに国民から『女王が不老不死になりたいだけなのでは』という批判の声も上がりましたけど、私はそんなつもり一切ありません。国民のためなんです。あなたたちは信じてくれるかしら? ふふ、理解のある旅人さんでよかった。そうそう続き……批判の声に耐え薬を服用したところからでしたね。私の場合その時は平気でした。むしろ力が湧き上がってくるような感覚……だったかしら……。ごめんなさいねぇ、忘れてしまいましたわ。なんせ十年も前のことですから。まあこれは置いておくとして、私が平気だったからと、薬を国民全員に与えたんです。……いえ、与えてしまった、と言った方が正しいでしょうね。異変に気づいたのはたしか……二十歳くらいのまだ若い女性でした。薬を飲んで一日経っただけで、その女性は自分が老けたと申し出たんです。二十歳を越えてからが年を取るのが早いと言いますし、薬の効果がまだ出ていないだけだと思って私も含めその女性以外はたいして気に留めませんでした。ところが一週間経つと、今度は五十代くらいの婦人がここにやって来て申し出たんです。『私の若さを返して』と。その婦人は一週間前に来た若く美しい女性だったの……。信じられない現象でしょう? 研究員たちは女性の身体を調べて薬が原因ということはわかったのですが、その薬の効果をなくすまでの開発には至らず皆……。あの時、あの女性が最初に来た時、私がちゃんと話を聞いていれば……もっと国民の声に親身になって寄り添えば……何とかする方法だってあったかもしれないのに私はなんてことを……。 ああ、こんな辛気くさい話はもうやめましょう。旅人さんもこんな年寄りの懺悔を聞いたところでつまらないでしょう? いったいなぜこんな話になったのかしら……。子供といえば外で遊ぶのが一番ですよね。私子供が無邪気に遊ぶ姿が大好きなんですの。そうそう! 庭園の遊具はもう見ました? 私が頼んで設置してもらったんですよ。耳を澄ませばほら、子供たちの明るく可愛らしい声が外から聞こえるでしょう? ぜひご覧になってくださいな。この国に訪れた旅人さんたちにもいつも見てもらっているんです。ラ……ぁ……、ランタ、さん。この子たちを遊び場まで案内してさしあげて」 「はい」

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