英雄譚
-Destruction and regeneration-
遠い昔。そこは緑のない国だった。
国内では派閥が分かれ、どの派閥が強く、そして偉いかと、醜く争いを続けてきた。
ある日一人の旅人がやってきた。
争い続け廃れた国の民たちは、誰一人としてその旅人を歓迎などしなかった。歓迎する余地などなかった。
しかし旅人はその国で休息を取りたいと居座った。
旅人はフードマントを身に纏いフードをかぶっており、顔にはマスクとゴーグルを装着していた。
素顔を見せんとするその風貌に国民はみな、より一層怪しんだ。
他国からやってきた、この国を狙う遣いなのかもしれない、そう思い込んだ。
旅人は、争いを続けてきたことにより疑心暗鬼に陥っていた国民から目を付けられ、争いに巻き込まれた。
来る日も来る日も旅人は国民から襲われた。
しかし旅人は顔色変えず国民を返り討ちにした。それほどの実力を持っていた。
ついにこの国で一番の武力を持った派閥の民からも目を付けられ、旅人は奇襲を受けた。
それでも旅人は依然として顔色を変えなかった。
誰も旅人に敵うことはなかった。
『ああ、小さな生命。お前はこんなところでも強く生きているんだな』
荒れ果てた地で見つけたとても小さな緑の芽。
旅人は、国民のことは無心で追い払っていたのに対し、その芽にだけは心を持って対話した。
やがて小さな生命は、醜く争う人の足によって踏み潰され、いとも簡単に生を絶たされた。
そして──
その国の民たちは、とうとう戦う気力を失った。
見事なまでの殲滅。
旅人は国相手に、武力を以て武力で制した。
旅人はフードを外し、ゴーグルを下ろして国を一望すると、
『大地が泣いている……。すまないな……余所者のオレではお前を慰めることができない……』
そう言ってその国を去った。
たった一人の旅人に、圧倒的力で打ちのめされた国民は、自分たちの存在の愚かさ、小ささを思い知った。
地に這いつくばった民は、旅人が居座った随所で、未だ力強く命を宿す芽を見つけた。
なんとも小さい芽だった。何度踏み潰したかわからない芽の一つにすぎない。
自分の小ささを知ったその民は、小さな芽を踏むことができなかった。
国一の武力をもった派閥は、国一の緑を愛でる派閥になり、旅人のことを英雄と崇めるようになった。
旅人がこの国を発つときに見せた容姿を、その派閥の権力者一人だけが目に焼き付けた。
その旅人は、のちに『白神』と名を馳せる──