「あなたがそれでいいと言うなら私はもう何も言わない。それがあなたにとって本当にいいことなら」 「いいです。かまいません」  ノンははっきりと即答した。感情は入れていないはずなのに、その言葉はいつもよりもとても重く、心が宿っているようだった。  強く言い切るノンにフウが口を出すわけにもいかず、悲しそうに下を向いてからにっこりと笑った。 「わかった。じゃあボクは二人を応援するよ。このまま何事もなく、大事に至らず旅できる日々を祈ってる。でもいつか目的が見つかると、旅は楽しいものになると思うよ。ノン君の心も変えられると思う」 「自分はこのままで十分です」 「あはは、固いなぁ。それでいいならいいけど。シキちゃんは、ノン君を支えてあげてね」 「うん、大丈夫だよ! どんとおまかせだよ!」  シキは胸をポンと叩いて張った。まだ幼いシキだが、ノンのためになりたいと思っているのだろう。役立ちたいという思いがシキの様子からうかがえる。 「それじゃあね。二人とも道中気をつけて」  手を振りながらフウは笑顔で去り、シキも手を振った。ノンは振り返さなかった。 「ノンちゃん、結局フウちゃんって何者なの?」 「……さあ……。人間でないことはたしか。自分で認めたから」 「私たちとも違うって言ってたね……」  ノンとシキは、フウが去っていった方向を一点に見つめてそう会話する。「あの者は何者なのだろうか」という疑問を胸にしまいこんで。  ──ヒュゥオゥ  風が吹き、木がざわめいた。  木がざわめき、木の葉が舞った。  葉が舞って、二人の視界を遮った。  まるであの少女を隠すかのように。 「世の中には知ってはならないものがいくつもある。そのうちのひとつが彼女のことなのかもしれないね……」   夏には何かが訪れる   それは幸運を呼ぶものか、害を及ぼすものか   いかなることがあろうともそれを探ってはならない   なぜならそれは、ただ通っただけだから   邂逅して去る   それこそ夏   詮索するのは世の流れに逆らうだけ   逆らうな   風のように流れてしまえ   夏は流れ、過ぎて行き   季節は秋に流れ着く 「また会えるかな」 「さあ……。──できれば自分は会いたくない」  二人は十分に休むと水を汲んでまた旅に出た。フウとは反対の道を突き進んで。

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