「ノンちゃんノンちゃん助けて助けて!!」  こんなときはやっぱり頼れるノンちゃんに言うのが一番。私は走ってノンちゃんの元へ戻りました。ノンちゃんに占ってもらおうと順番を待つ人や、周りを囲って様子を見ている人がまだたくさんいましたが、申し訳ないけど割り込みます。 「シキ? どうしたの」  口に当てていた笛を離し、ノンちゃんは顔をこっちに向けて私の話を聞いてくれました。 「ちょっとあなた、私が先なんだから占いならちゃんと列に並んでからにしてくれないかしら?」 「……この子は自分の妹です。すみませんが少し待ってください」 「そ、そうなの……。まあ、いいわ……」  ノンちゃんは少し目を細めて少しだけ睨むように言いました。うん、少しだけ。待っていたお姉さんごめんなさい。 「あ、あのねあのね! 向こうでね! ヒヨコちゃんが喋ってね! でもその子商売道具で! それでそれで! えぇと……その子を助けたいの!!」 「……?」 「えっとえっと! ああぁ……っ、えぇっと……」  伝えたいことが上手く伝えられなくて私は半泣き状態です。ノンちゃんは最初首を傾げていましたが、その後首を元に戻して私の頭を撫でました。 「うん、なんとなくわかった。そのヒヨコがいるところに案内してくれる?」 「う、うん!」  さっきのでよくわかってくれたなと自分でも驚きです。さすが頼りになるノンちゃん。これだからノンちゃん大好……いや、なんでもないです。 「ま、待ってよ! 占いは? 私はどうなるの?」 「すみませんがあとでお願いします」  待っていたお姉さんは少し怒るようにして言いましたが、ノンちゃんは冷静にそう返しました。すると、 「俺も待ってるんだけど!」 「並んでたこっちが先だろ!」 「妹なんか放っておけよ」  意外とノンちゃんの占いが好評だったらしく、だからこそお客さんたちはここで止めようとするノンちゃんに怒鳴り散らかしてきます。早くヒヨコちゃんを助けたいですが、ノンちゃんを困らせたくもないです。ここは一旦お客さんの相手を優先させた方が…… 「あとでお願いします」  私がノンちゃんにそう言う前に、ノンちゃんのまた鋭くした目と強くした言葉がその場にいた人たちを黙らせてしまいました。 「ノ、ノンちゃん、私のことはあとでもいいよ……?」 「シキが助けてって言ったんだ。自分はシキを助ける」  ……ノンちゃん大好き。  首に掛けていた看板を路上に置いていき、ノンちゃんをヒヨコちゃんの元へと案内すると、やはりというかなんというかお客さんはいませんでした。 「くっそう……喋ってくれよ……」  おじさんがそう泣いて懇願するかのようにヒヨコちゃんを見ますがヒヨコちゃんはぷいっと顔を逸らしています。 「喋るヒヨコがいると聞いたのですが……」  ヒヨコちゃんの方に顔を向けていたおじさんはやっとこっちに気づいて、顔をノンちゃんの方に向けました。ノンちゃんの足にしがみついている私には気づいていないようです。 「あ、ああ、いらっしゃい……。すまないねぇこいつ不機嫌で今日はもう喋らないようなんだ……あっはっは……」 「自分が話を聞いてみてもいいですか?」 「ああ、試してみな……」  無駄だろうと思っているのでしょうか、おじさんは諦めたように手をひらひらと振ってそっぽむいてしまいました。ノンちゃんは軽く背中を曲げて、ヒヨコちゃんに顔を向けて喋りかけます。 「……。どうも、こんにちは」 「おう。ちわ。あんたもオレと同じなんだな」 「…………みたいですね」  ノンちゃんとヒヨコちゃんが会話しているのを見て、おじさんはまた驚いたように目を丸くしました。 「あなたはなんでここにいるんですか?」 「情けねえ話なんだが、まー簡潔に言うと、捕まった」 「簡潔ですね」 「ああ、簡潔だろ?」  捕まったというのにヒヨコちゃんは危険とかそういうのを感じずに笑いながらそう答えました。 「お、おおお、お前なんで今……!」 「あぁ? こいつらはオレの仲間だから、」 「いえ、仲間ではないです」  ヒヨコちゃんの言葉を遮ってノンちゃんがきっぱりそう言い、ヒヨコちゃんもおじさんも一瞬止まってしまいました。もちろん私もですが。 「……な、仲間じゃない! ああ知ってるさ! だが同族なんだよ……な?」  ヒヨコちゃんは誤魔化すように汗を垂らしながらノンちゃんの方に顔を向けて確認するように言いました。どこか情けなく見えるのは気のせいじゃないと思うのです。ノンちゃんは顎に手を置き首を傾げ少しだけ考えていました。 「……そうですね。同族ではあります」 「というわけなんだよ! わかったらさっさとオレを解放しろ!」  同族と言われてヒヨコちゃんはまた偉そうにおじさんに顔を戻してそう怒鳴りました。とても現金です。  おじさんは同族であるノンちゃんをまじまじ見て、その後私の存在にもやっと気づいたようです。またヒヨコちゃんを買収するつもりだと知ったおじさんは私たちに向けて叫びます。 「冗談じゃない! まだ儲けてないのに手放せるか! 解放してほしかったらお前も客のいる前で喋れよ!」 「やなこった」  ヒヨコちゃんにもそう叫びましたが、当然のようにヒヨコちゃんは断ってまたぷいっと顔を逸らします。  すると、 「さっき自分が稼いだ一部ですが……」  ノンちゃんは小袋に入れていた小銭を少量手に取り、テーブルの上に置きました。 「あなたの商売が『ヒヨコが喋るところを見せる』というものなら、自分とシキは見てしまったのでその分の代金は払います」 「お、おお……わかってんじゃねぇか……」  おじさんはこうも素直に代金を払われると思っていなかったらしく、少し苦笑気味にノンちゃんが払ったお金を受け取りました。 「お金払ったからヒヨコちゃんは私たちが預かるよ! ねっノンちゃん!」 「? これはただの商売を見せてもらった代金だよ。この同族さんをもらうお金じゃない」 「へ……?」  てっきりそのままヒヨコちゃんももらうと思っていた私は、思わず間の抜けた声を出してしまいました。渡したお金は本当にただの見物料のようです。 「自分は別に買い取ろうだなんて思ってないよ」 「おお! 物わかりのいい兄ちゃんじゃねえか。そうそう、買い取りなんてさせねえよ。そうしたら商売ができないからな」 「じゃ、じゃあ、ヒヨコちゃんは……?」 「うん、だから、」  お金を渡したノンちゃんは、今度はヒヨコちゃんに顔を向けてこう言ったのです。 「助けるとすると、お礼としていくらもらえますか?」

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